女神はひとしずくの涙を(目醒め)

2021年4月27日火曜日

★グリフィンと欠落の姉妹編 マジカル後継者世帯

t f B! P L
こんにちはー。

本日は、また「グリフィンと欠落の姉妹編」ですー。

外界からの刺激に反応しない「小さなイナ」を気遣い、面会に臨み続けるグリフィン・トワイライト。ある日、イナを連れて施設の庭に出たグリフィンは、彼女の魂の扉がノックされる瞬間を目にします。イナ・ポートランドはついに、喪ったものを取り戻すのでしょうか…?

それでは、本日もまいりましょう!



ふたりの男が話し続けるその横で……イナに変化が訪れました。はたり、はたりと、優雅に手を動かします。それは、あるいは翼のように。


ムーア「おい……!」

グリフィンは既に、彼女の異変に気づいていました。さらに何か【驚嘆の文句を口にしようとした】ムーアを手振りで黙らせ、彼女の動きを注視します。

グリフィン「…………」

イナは七回腕を上下させ、そして目を開けました。


それきり身動きせず、浅い呼吸を続けています。彼女の虚無的な瞳の奥に、奇妙に強い光が宿り始めています。

ムーア「なんだってんだ……?映画のワンシーンじゃねぇんだぞ……!」

グリフィン「…………」


今、自身の振舞いを誤ってすべてを台無しにしてはならない。野性的な鋭敏さでそう感じ取り、グリフィンは息を殺しています。


ムーア「おい、待……!」



グリフィン「……あなたは、本当は喪ってない。あなたが空白を感じても、あなたの魂が憶えてる。踊れ。あなた自身を取り戻すために

まるで王女に進言するかのように、彼は低い声で命じました。


それは、無音の世界でした。


イナは羽のように軽やかにグリフィンの手を離れると、幼児とは思えぬ静謐さで踊り始めました。不思議だったのは、彼女が見事なピルエットを見せた時も、あるいは高々と飛び上がった時でさえ、その瞳は閉じられていたことです。


ピアノはなくヴァイオリンもなく、乾いた風の吹き抜けるなかで……彼女は五十秒に渡って、動き続けました。


その足が止まり、その腕がしなやかに下ろされ……、彼女は今度こそ、深い息をつきました。


グリフィン「イナ・ポートランド!

世界じゅうの霧を晴らす声で、グリフィンがその名を呼びました。

イナ「…………」

グリフィン「…………」


イナ「…………。なぜ、あんたがここにいるの。あの頃出会った男の子。時間がさかさまに流れてるみたいに

グリフィン「すべては偶然の産物かもしれない。何かが引き合わせようと働いたのかもしれない。だがとにかく、あなたはこの町に戻ってきた」

イナ「そうじゃない、そうじゃないんだよ……!サンマイシューノのグリフィン!


確かな発音で、彼女は【彼がそこにいること】を認めました。幼児の愛らしい声色ではなく、二十二歳の女性の発音です。そして同時に、張り裂けるような響きがありました。

彼女が地面を蹴って彼に駆け寄り、一瞬、抱擁を求めるかに見えました。しかし、彼女はそうはせず、彼の腿に爪を立てて掴みかかりました。



イナ「どうして、あたしの目を醒まさせたの!あたしはもう幕を下ろし奈落に潜って、二度と目を開かないと決めていたのに!あんたを呪ってやる。あたしはもう、どんな音楽にも耳をふさいで、永い眠りにつこうと決めていたのに……!!

グリフィン「…………!!」


烈しい悲嘆をぶつけられたグリフィンに、答えるべき言葉はありませんでした。

彼のポケットで、呼出機が面会時間の終わりを告げています。しかし彼は、根が生えたように立ち尽くし、彼女の呪詛に耳を傾けていました……。

つづきます!


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