今回は、現行のお話シリーズ「きみは、あしたもここにいる(幕間)」のつづきを保存したいと思います。
すっかり遅くなってしまいましたが、お陰様で最新話の準備が整いました(平伏)
今回、お話の挿絵を撮るのがすごく楽しかったです!
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そして、今回も定型のご挨拶を……。
このお話は、プレイ記録をお話仕立てにしたものではありません。こちらは、おもにシムたちのポーズ画像を挿絵にして、うちの世界独自の設定なども盛り込んでストーリーが展開していく「シムズ小説」とでも呼べそうなシロモノです。ぺこり……。
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というワケで、
星空シムズ年代記より「きみは、あしたもここにいる(幕間)」
それでは、本日もまいりましょう!
第一の話(その6)
それらの記憶のこと
スラニ諸島でいちばん立派な桟橋から高速艇に乗って、街の港へ。そこからバスと電車を乗り継いで、サンマイシューノまで。
ハンナの姿はいま、急行電車のなかにありました。
ソニア「ハンナちゃん、路線図見てくるね?」
ソニアが座席から立ちあがり、乗降口のうえに掲げられている路線図を確かめに行ってしまったので、ハンナはひとりになりました。
ハンナは、エヴァーブルーから最後に届いた手紙のことを思い起こしていました。
しばらく地中にもぐります。
心配いらない。
ときが来たら、また連絡するね。
エヴァーブルーより。
それだけ伝えてよこしたまま、その後はいっさいしっぽをつかませなかった「妹」……あの図抜けて賢いエヴァーブルーに、今夜会える。ブライトチェスターで大学生活を謳歌していたはずの妹がなにを思って姿をかくしたのか、想像してみたところでわかるはずはありません。
ただ、妹は今夜、ハンナになにか重要な転機をもたらすのではないかという予感があった。
ハンナの頭のてっぺんに信号が点灯したような感覚があるのです。
ハンナ(ブルー。あんたは元々、あたしをドキドキさせるのがうまかった)
ハンナの記憶のページが開いて、エヴァーブルーと初めて出会った日のことが思いだされました。
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数年前のエヴァーブルー「あんたがミナキ家のハンナ?」
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初対面で、エヴァーブルーはいきなり言いました。
ハンナは二十歳、エヴァーブルーは十八歳でした。
数年前のハンナ「……そうだよ」
数年前のエヴァーブルー「初めにハッキリさせたいんだけど、あんたがあたしの新しいねえさんだなんて認めない。あんたがカビの生えた【伝統】に屈服して、ごたいそうなミナキ家を継ぐ【筆頭候補】として生きようとしてることは知ってる。辟易したよ!」
数年前のエヴァーブルー「ハンナ・ミナキのウワサは、子どもの頃から聞いていた。あの頃のあんたはヒーローだった。年寄りたちが決めつけたあんたの【役目】を、あんたは毅然として拒絶している。子どもたちはみんな、そう言った。だのにどうして、いまごろになってあんたは【役目】を受け入れて、あんた自身の人生を手放してしまったワケ?」
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エヴァーブルーは間違いなく、ハンナ・ミナキの妹です。
血はつながっていないが、姉妹の誓いをかわしています。
しかし、ミナキ家の実の娘であるハンナの人生に、エヴァーブルーが「辟易したよ!」とさけびながら落下傘降下してきた、あのとき。あのときのブルーはまだ【ハンナと姉妹になるという運命】に対してケンカを売っている最中でした。
エヴァーブルー・ブレイク。
古くからミナキ家と親交のある名門・ブレイク家の第二プリンセス。
四百年つづく【両家の友情の証】として、ブレイク家の娘は十八歳になるとミナキ家に預けられます。そうして伴侶を得るまではミナキ家の子として扱われ、ミナキの者たちから伝統的な踊りや歌、楽器の演奏を学ぶのです。
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数年前のエヴァーブルー「【歴史ある家の名】に敗北した女の子なんて、尊敬できるはずがない。ハンナ・ミナキがあたしのねえさんだなんて、あたしはぜったいに認めないから!」
数年前のエヴァーブルー「……ハンナ・ミナキ。あたしの話を聴く気はある?」
数年前のハンナ「聴こえてるよ。隣にいるんだから」
数年前のエヴァーブルー「おとなたちはみんな、定められた通りの人生を生きている。劇のなかで自分の役を演じるみたいに。……そのしつらえられた舞台を、あんたはぶちこわさなきゃならなかった。ハンナはこの劇をたたきつぶすことができる、たったひとりの役者だった。それなのに」
エヴァーブルーが振り返り、ハンナの瞳を真正面からとらえました。ハンナとしてはてっきり、エヴァーブルーの顔は怒りに燃えているものだと思っていました。だが、ブルーの目許は腫れていた。魅力的な逆三角形の頬のラインは、怒ることに疲れてむくんでいました。
数年前のエヴァーブルー「……あんた、このままつまらないおとなになってしまって、それでいいの?」
数年前のハンナ(エヴァーブルー、あんたは正しい)
ハンナは、声に出さずに断定しました。
数年前のハンナ(あたしなりに考え抜いたと言ってはみても、あたしが【つまらないおとなになること】を受け入れてしまったというのは、ほんとうの話だ。一族の役目のため……あたえられた役を演じるだけのためにこの世に送り出されたのだとしたら……あたしたちは、なんのために生かされているのだろう)
ずっとむかしのちいさなロイヤル「決まってるだろ!自由になるためだよ!」
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ハンナの回想のなかに、別の時代についての記憶が割りこみました。
ハンナ(……こっちは、あたしが十一歳でロイヤルが八歳だったときの記憶だ)
サンマイシューノに向かう電車のなかで、二十三歳のハンナが、回想録のラベルをながめるような気持ちでつぶやきました。
そこで疑問が持ちあがりました。
ハンナ(…………?ううん、合ってる。ロイヤルが八歳のときで間違いない。けれど、どうして記録がハッキリしないんだろう。すりガラスのむこうにある景色を見てるような感じがする)
ずっとむかしのちいさなロイヤル「それで、どうなのさ。おれのイケンについての、二十三歳になったハンナの感想は」
ハンナ(どうだろうロイヤル。あたしもあんたも、子ども時代には留まれない。あたしは、子どもだったあたしの葬式を出して、おとなになったと思ってる)
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数年前のフリーダ「ハンナ、ここにいたんですね」
ハンナの回想は、機械的につづいています。
数年前のハンナ「ハイ、かあさま。なあに」
数年前のフリーダ「おばあさまが亡くなりました」
数年前のハンナ「…………。この夏を越せるだろうと思ってた」
数年前のフリーダ「海の巨人が、おばあさまをお呼びになったのです。かあさまはおばあさまに代わってお役目をはたすため、筆頭代行とならねばなりません。ハンナ、あなたにかあさまの役を譲る日が来ました。あなたはかあさまの跡を継ぎ、スラニの灯台守となるのです」
石のような灰色に変わっていく記憶のなかで、二十歳のハンナはつめたい右手を左の腕にまわし、自分のやわらかな筋肉に爪をたてました。
数年前のハンナ(なんという情けなさだろう。おばあさまが亡くなったというのに、涙が出ない。ただ、おばあさまが舞台から去ってあたし自身の役が決定していくことに、あたしはいま怯えている)
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???「ハンナ!!」
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また別の時代についての記憶のページが開いて、その奥からよく通る声が呼びました。
サンマイシューノ行きの電車のなかで、ハンナは思わず振り返りました。
すこしおとなに近づいた頃のグリフィン「記憶に溺れる必要はない。自分の影を恐れるな」
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ハンナ(……そうだね、グリフィン。そうだった)
ハンナは急行電車の座席に身を沈め、目をぱちぱちさせて息を吐きました。
ソニア「ハンナちゃん。終点が近づいてくると、みるみるうちに景色が変わるね」
いつのまにか路線図を見るのをやめ、隣の席にもどってきていたソニアが、おっとりとした声で言いました。
窓の外には背の高いビルが増えはじめ、LEDのおおきな看板が、最新流行のファッションを宣伝しています。終点というのは、サンマイシューノのことでした。
ソニア「…………?だいじょうぶ?」
ハンナが夢から醒めたような顔をしていることに気がついて、ソニアがじっと見つめました。
ハンナ「だいじょぶだよ」
ハンナはかすかにほほえみました。
お読みいただき、ありがとうございました!
つづきます!
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